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1. 講座の概要

固体地球物理学講座では,固体地球の不均質性や複雑性に着目し,変動する固体地球の構造や断層運動,地震波の伝播特性,火山噴火やそれに関連する諸現象を支配する法則を,理論・観測の両面から明らかにすることを目指しています.

地震は、不均質な地球の内部で発生する、複雑な岩石のせん断破壊現象で、長周期から短周期まで幅広い周期の地震波が生成されます.とくに短周期地震波に着目し、国内外で発生した大・中地震の断層破壊過程を調べるとともに,その結果を災害軽減のための地震動予測に利用することを目指して研究を進めています.

火山では,気液固相からなるマグマと周辺岩体との相互作用により,多様な火山活動や噴火様式が生み出されます.マグマ上昇モデルや噴火機構のモデリングを行うとともに,国内外で火山観測を実施し,火山噴火ダイナミクスを支配する法則を調べるとともに,次世代の火山噴火予知技術の構築を進めています.

地球内部構造の地震学的研究も進めています。永い時間をかけて形成された地球内部の構造に関する情報をもたらしてくれる地震波の伝播特性の研究や,古典的な球殻構造では記述しきれない地殻・マントル構造の不均質性や時空間的変化を,地震波干渉法や地震波散乱・減衰モデルに基づき調べています.

これら多岐にわたる領域の研究と教育は,本学の地震・噴火予知研究観測センター,防災科学技術研究所との密接な連携のもとに進められています.

2. 連携併任講座

 国立研究開発法人防災科学技術研究所 の研究者を,連携委嘱教員として1996年度から迎えています.併任教官には,全国規模で進められている地震や火山の観測研究とその成果,そして社会との繋がりとして最も重要である地震や火山災害の軽減(防災)に関する取り組みを,集中講義としてご紹介いただいています.また,防災科学技術研究所の大規模な地震データベースを使用した研究などでは,学生の研究指導も担っていただいています.

3. 研究交流

 当講座は,国内及び国外の他の研究機関との研究交流を積極的に進めています.

【国内】

  • 防災科学技術研究所
    •  連携併任講座の設置をはじめとして,とても密接な連携を行っています.
  • 産業総合研究所(旧,地質調査所):
    •  当講座の院生(福島君,2000年当時M2)が,西澤修主任研究官(東北大学地学専攻併任教授)の指導のもとに,レーザードップラー計を用いた超音波の波動伝播計測実験を行う.岩石の不均質構造のスペクトルと散乱現象の定量的関係を明らかにした.
  • 東京大学・地震研究所
    •  地震波の散乱に関係した共同研究プログラムに参加し,全国の研究者と協力して当該研究の発展に大きく寄与した.このプログラムは,1995年度-1996年度(代表:佐藤春夫),1997年度-1999年度(代表:松本聡),2000年度-(代表:小菅正裕)と現在まで継続されている.学術雑誌「地震2」に,特集「短波長不均質構造と地震波の散乱」をまとめた.

【国外】

  • ドイツ・ライプチヒ大学
    •  日本学術振興会・日独共同研究(2002-2004)が承認され,ドイツ・ライプチヒ大学の地球物理学・地質学研究所(Korn教授)との間で,研究者の相互訪問を含む研究協力を開始しました.これは,学振外国人特別研究生として,2000年2月まで1年間に渡って当講座に滞在した同大学研究員のWegler博士との研究をさらに発展させるものです.
  • 米国・ロスアラモス国立研究所
    •  これまで長い間,同研究所の地球環境研究部門と研究協力関係を築いてきました.Fehler博士は佐藤の良き共同研究者であり,たびたび当講座を訪れています.昨年は,Huang博士が講座を訪問し,セミナーを行いました.
  • 米国・カリフォルニア大学サンタクルズ分校
    •  同校の地球物理学教室のWu博士とは長く研究協力関係にある.佐藤は,IASPEI国際会議において,たびたび,Wu博士とセミナーを主催.
  • 韓国・ソウル大学:
    •  佐藤は,地球物理学教室のLee教授の招聘によりソウル大学を2000年5月に訪問.3ケ所でセミナーを行う.7月にはLee教授が仙台を訪れて,韓国の地震活動についてのセミナーを行う.10月より,ソウル大学大学院生(博士課程1年)のWon Sang Lee君を東北大学大学院特別研究学生として受け入れる(2002年8月まで滞在).
  • 韓国・世宗大学:
    •  Chung助教授が,1年に渡って(1999-2000年),当講座に滞在.韓国南東部における地震波動の減衰の研究を行う.その成果を,米国地震学会誌のBSSAに発表.

4. 学部のカリキュラム

 宇宙地球物理学科(地球物理学コース)における固体地球物理学関係の講義としては,固体地球物理学,地震学,同演習,地殻物理学,同演習,震源物理学,火山物理学があります.この他に,学部レベルでは,基礎としての物理学(量子力学や情報理学など)の習得が求められます.また,地球物理学関係の講義についても,気象・海洋・惑星空間系にわたって幅広く履修することが期待されています.

 4年生になると研究室に分属し,宇宙地球物理学科(地球物理学コース)の必修科目である宇宙地球物理学研究が始まります.これは,発表会形式の授業です.具体的には,学術論文や各自の研究成果を,年に2回,同期生や教授・准教授を前にして紹介します.持ち時間は18分(発表12分,質疑応答6分)です.要領を得た簡潔かつ明瞭な説明と,専門的な質問へのしっかりとした応答が求められます.当講座の4年生は,この授業で学習・研究した内容を卒業レポートとして提出しています.

 これまでの学生の卒業論文は こちらに過去の一覧 を掲載しています.

5. 大学院のカリキュラム

 大学院生のカリキュラムの主体は,セミナーです.固体地球物理学領域(A領域)に属する博士課程前期及び後期課程の院生全員が,当講座と予知センターとがそれぞれ主催するセミナーの双方に参加します.発表内容は,新着論文の紹介,レビューワーク,独自の研究等ですが,院生が自分の責任で選びます.博士課程・前期の課程の講義には,地震学特論,震源物理学特論,地殻物理学特論,火山物理学特論,地震計測学特論,火山計測学特論があります.博士課程・後期の課程の講義には,固体地球物理学特殊講義がありますが,例年,集中講義の形で行われます.

 もちろん,これに加えて,課題研究があります.例年,院生たちとの話し合いの中から,研究テーマを絞ってゆきます.古典的な論文をしばらくは読みたいという学生もあれば,早くテーマを見つけたいという院生もいて,課題研究に取り組み始める時期にはかなり幅があります.大学院の入試には必ずしも地球物理学の素養を要求していませんので,当講座でも,入学して初めて地球物理を学ぶ学生がこれまでに何人かおりましたが,みな修士論文をきちんと完成してきました.ここ数年をとってみても,実施した研究の幅は結構広いものです.

 これまでの学生の修士論文は こちらに過去の一覧 を掲載しています.

 博士課程後期の課程では,多く場合,修士論文の時のテーマを発展させる作業を行っています.(もちろん,変更する場合もあります).研究を進めることと春・秋の学会での口頭発表はもちろんのことですが,このころになると,論文を英文で執筆し学術雑誌に投稿することが,大きな仕事となってきます.外部の査読者との意見交換は,学内での教官による研究指導の枠を越えて,大きな飛躍をもたらすものと信じています.また,研究者として自立への一歩となります.

 これまでの学生の博士論文は こちらに過去の一覧 を掲載しています.

6. 卒業生の進路

 当研究室の卒業生は,次のようなところに就職しています.

大学・官庁他: 東北大学助手,弘前大学助手,文部省学術情報センター助手,東京大学地震研究所COE,防災科学技術研究所PD,JAMSTEC PD,気象庁,CTBTO (ウィーン)
民間企業: トヨタ自動車,ジャパンエナジー,地熱エンジニアリング,東芝,応用地質,バーズ情報科学研究所,日本工営,三菱スペースソフトウェ ア,富士通,CRC総合研究所,日本総研

7. 固体地球物理学講座(旧,地震学講座)の歴史

 創設当初の理科大学には,数学2・物理学4・化学3・地質学3の4学科12講座が置かれ,物理学科の陣容は物理学・星学担当の日下部四郎太教授,物理学担当の本多光太郎・愛知敬一両教授,石原純助教授らであった.明治44年(1911)9月11日に入学式,17日に初めての講義が行われた.この開講に先立って,8月25日から一週間夏期学術講演会が開かれた.数学の学術科日の他に,総長以下の理科大学教授による啓蒙的な講演が行われ,78名の受講者には聴講証明書を発行したといわれる.開講に先立つこの公開講座の開設は,研究第一主義に加え,実用を重んじ,開かれた大学を意図する新興東北大学の意気を示すものであった.その後も学術講演会は毎年夏,啓蒙的な講演会は春秋2回催されたという.日下部が啓蒙活動に相当な努力を傾げたことや,本多の工学的で実用性に富んだ鉄鋼研究にもこの傾向がうかがえる.一方,研究第一主義にふさわしく,早くも明治45年(1912)1月には東北帝国大学理科報告創刊号が発行され,本多光太郎とベル・ドーソン(カナダ)の共著「カナダ沿海における海水の副振動について」他4篇が掲載されている.

 開講後間もなく,物理学科は,天象・地象の観測を目的とした向山観象所を現在の仙台市向山に建設した.ウィーヘルト式地震計・大森式地震計・ツァイス赤道儀・バンベルク子午儀を設置し,専任の観測取扱いを置いて,日下部の指導の下に大正2年(1913)より観測を開始した.名前の示すように,自然現象のあらゆる分野の観察,天文・地震・気象の常時観測と研究がここで行われた.日下部が東北大学における地震学の基礎をおいたとみてよいであろう.日下部は,東京帝国大学時代に長岡半太郎の指導の下で,岩石の加重応答のヒシテリシス現象ならびに岩石の弾性に及ぼす温度の影響を実験的に調べ,理科大学赴任後の大正3年(1914)には「岩石の力学的研究」で帝国学士院賞を授賞している.これらの研究からは,日下部が地震学を物理学に基礎を置いた科学として進めるべきと考えていた様子がうかがえる.もう一つの特徴は社会的要請にこたえようという姿勢である.日下部は実験的結果を地震波の伝播・地盤の震動特性さらには地震の予知の間題に応用し,震災予防に役立てようと志していた.当時,沖積層のように地質学的に新しく柔らかな地盤は地震動の増幅度は大きいが波動の減衰も大きい,という正鵠を射た認識を述べている.地震の予知に関しても,外部応力の増加による岩石の弾性率などの変化検知の可能性を一例として示唆している.彼は,地震現象を地殻に蓄積された歪エネルギーの放出と理解し,こういう物理的視点から地震予報を基礎付けなければいけないといった考えを持っていたようである.大正9年(1920)9月に地球物理学講座の設置が決定し,大正11年(1922)5月から日下部が同護座を担任した.翌年六月に日下部は理学部長になったが,講座担任を継続し,地震学・天文学の講義を受け持った.このほか,白鳥勝義講師が地球物理学の講義を担当した.白鳥は,大正12年(1923)の関東地震の観測結果を論文「1923年9月1日相模湾に発生した破壊的地震について」(昭和元年(1925))に報告し,その中で関東地震に伴うとみられる地電位差の異常変化が電位差計によって検出された事を記述している.

 大正13年(1924)10月,中村左衛門太郎が講座担任教授として中央気象台から赴任した.中村は,地震のP波初動分布の節線と地殻構造線との一致に注目し,ひとつの節線に沿う地すべり(断層)で地震発生を解釈するという,断層地すべり地震説を唱えたことで知られている.東北大学赴任後の研究活動は,地震・潮汐・津波・火山噴火・温泉・地磁気地電流など,多岐にわたっている.昭和初期から始めた火山地帯の地磁気異常の測定,さらには,加藤愛雄(昭和13年(1938)3月より向山観象所助教授)と行った地震・火山活動に伴う地磁気変化の研究が注日される.加藤と中村は,仙台における地磁気の俯角変化の連続観測記録に昭和8年(1933)3月3日の三陸沖地震に先立つ急変が見出されたことを報告している.中村は関東地震の時に中央気象台地震掛長を勤めており,身をもって過酷な震災を体験したこともあって地震の予知に大きな関心を持ち,地磁気や地電流の観測によって地震の予知ができるのではないかと考えていたようである.昭和20年(1945)1月には地球物理学科が発足し,地震学(教授中村左衛門太郎)・地球電磁気学(同加藤愛雄)・気象学(同山本義一)の3講座体制となつた.

 昭和25年(1950)4月,中村が熊本大学に転出したのに伴い,翌昭和26年(1951)4月,本多弘吉がその後任として中央気象台から赴任した.本多は,中央気象台在職の昭和8年(1933),北伊豆地震の時に観測されたP波とS波の振幅分布を定量的に解析し,求められた節線のうちの一つが北伊豆地震の断層走向と一致することを報告している.本多は,この論文で複双力源の発震機構を世界に先駆けて提唱した.本多の主張する複双力源モデルが世界に広く認められるようになるのは,これが断層運動と数学的に等価であることが証明された1960年代になってからのことであるが,これは地震学における特筆すべき成果といえよう.本多は,これらの研究の集大成として「地震波動」(昭和17年(1942))を刊行した.この書籍は,複双力源モデルならびに地震波動伝播を学ぶためのテキストとしてその後広く用いられてきた.

 昭和36年(1961)1月,鈴木次郎が教授に昇任し,地震学講座を担任することとなった.鈴木は,これに先立つ昭和26年(1951)に東京大学から助教授として赴任し,向山観象所を担当した.もっと小さい地震があるのではないかという師松澤武雄東京大学教授の言葉に触発され,浅田敏東京大学助教授(当時)と共に当時のエレクトロニクスの技術を駆使して微小地震の計測を開始した.戦後の交通不便な時代に,小型軽量になったとはいえまだ重い地震計や記録計のガルバノメータを持って和歌山,四国,福井などの山村に出かけ,観測を行った.微小地震は発生頻度が非常に多いので,比較的短期間に多数の地震を記録することができ,その統計から地域の地震発生特性を比較的容易に調べることができると考えられた.鈴木は微小地震の統計的研究を精力的に行い,微小地震であっても,観測される地震動の振幅の頻度分布は,大きい地震について知られているのと同様のべき乗則に従うことを報告している.鈴木らの微小地震の観測研究は,その後の地震学の大きな潮流となり,現在の全国的な稠密微小地震観測の基礎をつくった.鈴木は,人工地震による地殻構造研究を目的とした「爆破地震動研究グルーブ」の中心的メンバーとしても活躍した.これは,昭和25年(1950)10月,岩手県石淵ダム工事現場で57トンの一斉爆破が行われた際の合同観測をきっかけに発足した,全国横断的な地下構造研究グループである.石淵―釜石測線の地下構造モデルは,その後の新しい研究方向を示したものとして記憶されている.鈴木は,昭和32(1957)~33年(1958)の国際地球観測年に際しては,向山地震観測所(昭和27年(1952)に向山地震観象所から改称)にプレス・ユーイング型長周期電磁式地震計等を導入し,地震観測の近代化の基礎を築いた.学内では,評議員(昭和45年(1970)4月~51年(1976)6月),理学部長(昭和46年(1971)6月~49年(1974)6月)を務めた.国内では地震学会委員長(昭和37年度(1962))を務めるとともに,国外ではIASPEI(国際地震学・地球内部物理学連合)の会長(昭和58年(1983)~昭和61年(1986))を務め,昭和60年(1985)8月には東京で第23回IASPEI総会を主催した.この間,中村公平助教授(昭和34年(1958)6月昇任)は,昭和35年(1960)のチリ地震以後,特に地震津波の波動伝播の理論的研究を行ってきた.昭和41年(1966)4月に助教授に昇任した江村欣也は,主に層構造における波動伝播の数値シミュレーションの研究を行った.

 昭和45年(1970)12月には,平澤朋郎が東京大学より助教授として赴任した(昭和51年(1976),理学部附属地震予知観測センターの教授に昇任).平澤は,地震の発震機構や震源過程および地震波動伝播に関する研究に重点をおき,特に理論面で強い指導性を発揮した.佐藤魂夫(院生,当時)と導出した円形クラックからの地震波動輻射に関する解析解は,その完成度の高さから注目を集め,現在も震源過程解析における標準モデルの一つとして用いられている.

 昭和61年(1986)4月には,浜口博之が地震学担当教授に昇任した(昭和51年(1976)4月から助教授,昭和63年(1988)3月に理学部附属地震予知・噴火予知観測センターへ配置換).浜口は,微小地震観測データに基づく地震発生機構の研究,地震波初動験測技術の開発,地球深部構造の研究を推進した.特に,1968年十勝沖地震の観測による相似地震の発見は,その後も地震の発生機構やプレート運動を理解する上の鍵として注目されている.また,2次元自己回帰過程を利用した地震波の験測方法は,高精度の自動震源決定には欠かせない技術として現在も広く利用されている.この他,沈み込むプレート内で発生する微小地震の発生機構の研究,コアやマントルの地球深部構造の不均質性に関する研究を推進した.また,ザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)において地震・火山観測網の整備を進めると共に,現地研究者の教育・育成に尽力した.その努力は,2002年1月ニイラゴンゴ火山噴火の際に,現地の研究者による事前予測の成功をもたらした.

 昭和63年(1988)4月,科学技術庁防災科学技術センターより大竹政和が講座担当教授として赴任した.地震活動の異常な静穏化に着目してメキシコのオアハカ地震(1978年,マグニチュード7.8)の発生を予測した論文「大地震の前兆の可能性を示す南メキシコ・オアハカにおける地震活動空白域」(松本らと共著,昭和52年(1977))は,地震予知の稀有な成功例として大きな衝撃を与えた.東北大学へ赴任後は,潮汐やダム湛水等による地震のトリガー現象に着目した研究を進めてきたが,アリューシャンや南トンガでは,大地震の発生に先行する期間では地球潮汐によるトリガーが有効に機能していることを発見した.サイスモテクトニクスに造詣が深く,日本海東縁の活断層と地震テクトニクスに関する総合研究を推進した. 地震予知には並々ならぬ精力をそそぎ続けてきており,平成13年(2001)からは地震予知連絡会会長,平成14年(2002)からは日本地震学会会長の職にある.学内においては,評議員を勤めた(平成11年(1999)4月~13年(2001)3月).

 平成2年(1990)4月,科学技術庁防災科学技術センターから佐藤春夫が助教授として赴任した.平成6年度(1994)には,大学院重点化に伴って組織替えが行われ,大学院理学研究科の地球物理学専攻に属する地震学講座は大講座の固体地球物理学講座に移行した.固体地球物理学講座では,地球の不均質な構造や断層破壊を支配する法則を理論・観測の両面から明らかにすることを,中心的な研究課題に設定した.平成9年(1997)9月に佐藤が教授に昇任し,大竹と共に固体地球物理学講座を担うことになった.佐藤は,主に不均質な地球構造を伝わる地震波の伝播と散乱に着目した研究を行い,高周波数地震波のエンベロープ形状が地下の不均質構造のスペクトル的特徴を強く反映していることを見出した.その後,地震波動の伝播過程に統計的な視点を導入した研究を発展させると共に,強震動の定量的予測を視点に入れた震源断層からのエネルギー輻射過程の研究を進めてきた.平成10年(1998)には,これらの一連の研究をとりまとめ,書籍「不均質な地球における地震波の伝播と散乱」 (マイク・フェラーと共著) を刊行した.

 平成7年(1995)5月には,小山順二が助教授に昇任した(平成8年(1996)3月,北海道大学へ転出).小山は,地震断層の複雑な破壊過程に着目し,震源スペクトルの相似則を中心にした研究を行った.固体地球物理学講座では,1995年1月の兵庫県南部地震以後,これまで解析が不十分であった1 Hz以上の高い周波数の地震波動伝播に重点をおいた研究を強化した.吉本和生助手は,地殻の不均質構造に重点をおいた微小地震のエンベロープの理論合成に取り組むと共に,利府・長町断層帯周辺の構造とこれに付随する極微小地震活動の観測研究を進めている.中原恒助手は,1994年三陸はるか沖地震や1995年兵庫県南部地震などの強震動波形の解析を基に,地震断層の不均質破壊運動に重点を置いた研究を進めている.

 平成8年度(1996)には,科学技術庁防災科学技術研究所(平成12年度(2000)より独立行政法人防災科学技術研究所に組織換)を連携先として連携併任分野(教授2名,助教授1名)が発足した.防災科学技術研究所は,日本全国規模の地震(微小地震,強震動,広帯域)及び地殻変動(傾斜,歪)のネットワーク観測を担っている研究機関である.制度発足時の平成8年度(1996)以来の併任教官を務めている岡田義光併任教授は,伊東沖・手石海丘での火山噴火に伴う地殻変動(GPS・傾斜・体積歪)を火山性マグマ貫入とそれに伴う地震断層運動で定量的に説明するシナリオの提唱者として知られている.木下繁夫併任教授(平成8(1996)~14年度(2002))は,ボアホール観測に基づく堆積地盤の地震応答の研究を進める共に,日本全国をカバーする千点の強震動観測網を実施担当者として完成に導いた.飯尾能久併任助教授(平成8(1996)~11年度(1999))は,小地震のスケーリング則ならびに地震断層破壊に関する観測研究で知られる.これ以降の各年度の併任教官を以下に記す.平成12年度(2000)の鵜川元雄併任助教授は,三宅島等の火山噴火活動メカニズムの研究で知られる.平成13年度(2001)の小原併任助教授は,全国規模の稠密微小地震観測網の観測責任者であり,西南日本でのフィリピン海プレートの等深線に沿って発生する低周波数地震の発見で知られる.平成14年度(2002)の福山英一併任助教授は,応力下にある地震断層の複雑な破壊現象の数理的モデル解析で知られている.

 固体地球物理学関係の講義やセミナー等,学部と大学院における学生の教育は,教室の固体地球物理学講座と附属地震・噴火予知研究観測センターの教官が共同して行っている.特に大学院では,院生は双方が主催するセミナーに参加することにより,学習の幅や研究の視点を広げることが出来るように工夫している.大学院生には,合同観測等の共同研究に積極的に参加すること,他大学や研究機関に出向いて研究を進めることを奨励している.近年,院生が国際学会における発表のみならず英文学術誌への投稿を積極的に行うようになったことは,教育的成果として特筆することができよう.(2003年4月2日 佐藤春夫記)

謝辞
 本稿は,東北大学百年史の一部として作成したものである.特に前半の記述の多くは,平澤朋郎東北大学名誉教授による「東北大学理学部の歴史」(地震,34,特別号,160-162)によった.記述全般にわたってご教示を下さった,平澤朋郎東北大学名誉教授および浜口博之東北大学名誉教授に,深く感謝いたします.

参考文献

  • Honda, K. and W. B. Dawson, On the secondary undulations of the Canadian tides, 東北帝国大学理科報告,1号,61- 66, 明治45年(1912).
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  • Sato, H., and M. Fehler, "Seismic wave propagation and scattering in the heterogeneous earth", AIP Press/Springer Verlag New York, 1-308, 平成10年(1998).
  • Shiratori, K., Notes on the destructive earthquake in Sagami Bay on the first of September, 1923, Jpn. J. Astr. Geophys., Vol. 2, 173-192 昭和元年 (1925).
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